博多の伝統工芸品である博多曲物です。弁当箱、飯櫃、棗、菓子器、蓋置、縁高、一輪挿など、博多曲物の人気商品です。

博多曲物 長い歴史をかけて弁当箱、茶道具など日常品として発展した伝統工芸品

最終更新日: 2022年6月25日

曲物は曲げわっぱとも呼ばれる伝統工芸品で、杉や桧(ひのき)などの板を曲線に曲げてつくる容器です。板の合わせ目は桜の皮で縫い綴じて、容器の底には同じ木の板を使います。

地域により呼び方は変わりますが、博多曲物以外にも、北は東北から南は九州まで日本各地でつくられてきました。

  • 福岡県福岡市: 博多曲物
  • 青森県藤崎町: ひば曲物
  • 秋田県大館市: 大館曲げわっぱ
  • 福島県南会津郡檜枝岐村: 檜枝岐わっぱ(ひのえまたわっぱ)
  • 静岡県静岡市: 井川メンパ
  • 三重県尾鷲市: 尾鷲わっぱ
  • 熊本県球磨郡球磨村: 一勝地曲げ

ここでは福岡市でつくられてきた博多曲物について、歴史、作り方、種類などについて説明します。

西暦200年まで溯る博多曲物の歴史

博多曲物の歴史は長く、西暦200年にまでさかのぼります。日本の第15代の天皇である応神天皇がお生まれになったとき、胞衣を納める木箱が博多曲物の発祥だと言われています。

胞衣を納めた木箱である、筥(はこ)お埋めになった際、そのお標として松の木を植えたといわれています。その松を「筥松」(はこまつ)、そしてその地を「筥崎」(はこざき)とよぶようになったと言われています。

応神天皇は福岡県福岡市東区箱崎にある筥崎宮のご祭神です。筥崎宮は、大分県の宇佐神宮、京都府の石清水八幡宮と並び日本三大八幡宮と呼ばれています。この筥崎宮では1月には玉取祭(玉せせり)、9月には放生会が行われ、多くの人が集まります。

福岡市の筥崎宮で行われる祭、玉せせりです。締め込み姿の男達が、水をかけられながら大きな木製の玉を取り合っています。
筥崎宮で行われる玉せせり

天正15年(1587年)の夏には、豊臣秀吉が博多の町を整備する(太閤町割り)ために筥崎宮に20日間滞在しています。茶人の千利休は秀吉に随行し茶会を催しました。筥崎宮に近い浜辺で、松の木に釜を吊り松葉を焚いて茶を点てたそうです(利休釜掛の松)。これが野点の始まりと伝えられています。筥崎宮には千利休が奉納したと伝えられる石灯籠(国指定重要文化財)があります。

筥崎宮の門前町「馬出」で生まれた博多曲物

江戸時代の儒学者・貝原益軒の「筑前国続風土記」によると、筥崎宮の門前町、馬出(まいだし。現・福岡市東区馬出)には祭具や日用品を作る曲物職人が多く住んでいたと書かれています。

博多曲物は、はじめのうちは神社や公家邸など一部の人にしか使われていませんでした。その後、徐々に広まり、江戸時代には庶民の家庭でも使われるようになりました。長い歴史を経て、飯櫃、すし桶、弁当箱、茶道具などの日常品である曲物、曲げわっぱとして発展してきました。

「日本の民芸の父」と言われる柳宗悦は、著書の「手仕事の日本」の中で、馬出と曲物について次のように述べています。

歴史の古い博多には面白い町が色々ありますが、とりわけ馬出町には眼を引かれます。そこには軒並に曲物細工の店が見られます。歴史は相当に古いようであります。主に杉の柾目を使って曲物を作ります。柄杓のような簡単なものから、飯櫃だとか水桶だとか寿司桶など、色々と念を入れた品を見出します。よい品は二重三重に貼って、これを桜皮で縫って止めます。よし品は必ず二十年三十年と材を涸らしてからでないと作りません。ごく手堅い職人気質の残る仕事で、その出来栄えには見事なものがあります。ここに手仕事の道徳とでもいうものを、まともに感じさせます。こういう気風が衰えて来た今日のこと故、尚更心を打たれます。

「手仕事の日本」柳宗悦 著

柳宗悦とバーナード・リーチも訪れた博多曲物玉樹

博多曲物玉樹は、初代吉右衛門(1600年慶長5年没)が馬出の地で創業した博多曲物ブランドです。

柳宗悦はバーナード・リーチとともに博多曲物玉樹(当時17代柴田玉樹商店)に立ち寄り、柴田家手づくりの寿司に舌鼓を打ちました。バーナードリーチはその際、そばに置いてあった曲物の折敷に筆で元気に跳ねる馬の絵を描いたとのことです。この折敷は今でも博多曲物玉樹に大事に保管されています。

現在は、第十八代柴田玉樹で、過去400年間で初の女性博多曲物師です。工房は福岡県粕屋郡志免町に、ショールームが福岡市東区箱崎にあります。

博多曲物師 柴田玉樹について

博多曲物の作り方

博多曲物は曲線と木目が美しいのが特徴です。曲物、曲げわっぱの材料となる杉の木探しから始まり、裁断、曲げ加工、乾燥、縫い合わせ、磨き、絵付けと一つ一つの工程に多くの時間をかけて、博多曲物の作品が出来上がります。

(1) 素材選び

曲物、曲げわっぱに適した杉の木を探します。節がなく、筋がまっすぐ通っている木だけを選びます。

(2) 乾燥・製材

博多曲物を制作しているところです。杉の木を薄く削り、同じ大きさに切りそろえています。
博多曲物を制作しているところです。杉の木板をかんなで削っています。

適した杉の木材が見つかったら、最低1年以上乾燥させます。その後、木を薄く削り、同じ大きさに切りそろえます。そして、重なり合う部分は薄くするために削り落とします。

(3) 杉材の煮沸

博多曲物を制作しているところです。薄く切った木板を煮立った湯で煮沸しています。

薄く切った木板を、あくを抜きながら30分ほど煮立った湯で煮沸します。煮沸することで木の繊維が柔らかくなります。

(4) 曲げ加工

博多曲物を制作しているところです。煮沸したての熱い木板を取り出して円形の巻木に巻きつけて曲げています。
博多曲物を制作しているところです
博多曲物を制作しているところです。柴田玉樹が曲物を木鋏でとじています。

煮沸したての熱い木板を取り出し、すぐに円形の「巻木」に巻きつけて曲げます。曲げた板は円形を保つように木挟で止めて、日陰で4、5日ほど乾燥させます。

(5) 桜皮綴じ・底入れ

博多曲物を制作しているところです。柴田玉樹が曲物の合わせ目を桜の皮で綴じています。

乾燥した外枠の合わせ目を、薄く整えた桜の樹皮で縫い綴じ合わせます。その後、底板をあわせます。

(6) 磨きあげ・絵付け

博多曲物のポッポー膳に、柴田玉樹が絵付けをしています

仕上げに磨きをかけ、絵付けするものには絵を描いていきます。

博多曲物の弁当箱と三宝

博多曲物 柴田玉樹 曲物弁当箱 だえん 中 曲げわっぱ
曲物弁当箱 だえん 中 曲げわっぱ 博多曲物 玉樹

博多曲物でよく知られるのは「弁当箱」と「三宝」です。温かいご飯を曲物につめると、ほのかに木の香りがただよい、心を落ち着かせてくれます。曲物は軽くて殺菌作用もあり、余分な湿度を吸収するので、お弁当箱にはかかせません。

博多曲物 柴田玉樹 三宝 台の部分は三方がくりぬかれていることから三宝と名付けられています。
博多曲物 玉樹 三宝

「三宝」は神様に神饌(神様へのお食事)をお供えするための台です。4面あるうちの3方向にのみ眼像(くりかた)が開いています。このような神事において、博多曲物は重要な役割を演じています。

茶の湯で愛される博多曲物の茶道具

博多曲物はお茶の席でも愛されています。季節を表現した茶菓子を入れる「縁高(ふちだか)」や、茶器を温めた後のお湯を入れる器「建水」、共蓋と三つ足がついた「水指」、茶葉を入れる「棗」、蓋を置く「蓋置」など曲物、曲げわっぱで作られた茶の湯の道具が揃います。

博多曲物 柴田玉樹 曲げわっぱ 五段の縁高(重箱、菓子器)です。松竹梅と鶴の絵が描かれています。
博多曲物 玉樹 五段の縁高(重箱、菓子器)です。松竹梅と鶴の絵が描かれています。
博多曲物 柴田玉樹 曲げわっぱ 曲物でできた水指です。茶道具として使われ、共蓋と三つ足がついています。
曲物でできた共蓋と三つ足がついた水指です。茶道具として使われます。

子供のお祝い膳「ポッポーお膳」

博多曲物 柴田玉樹 曲げわっぱ 曲物でできたポッポー膳です。
博多曲物 玉樹 ポッポーお膳

博多曲物で忘れてはならないのは、「ポッポーお膳」です。他の地域にはない博多独自のものです。

「ポッポーお膳」の名前の由来は、筥崎にはハトが多く、幼い子供がハトのことを「ハトポッポ」という言葉を使うことからハトポッポの「ポッポ」を名前に入れたと言われています。

「ポッポーお膳」には、男の子用と女の子用の2種類準備されています。高さが少し高いものが女の子用です。これは、女の子がきちんと正座をし、男の子はあぐらをかいて座るためです。

「ポッポーお膳」は子供の成長の節目をお祝いする「七五三」で使われます。また、生後100日祝いの「お食い初め」でも使われます。七五三は江戸時代は武家に伝わる風習でしたが、明治時代に全国的に広まったと言われています。

博多では、3歳になると「お膳すわりの祝い」がおこなわれます。これは、親に食べさせてもらうことなく、一人で食事ができるようになる年齢に達したということをお祝いする日です。

「ポッポーお膳」には絵が描かれています。お祝い事には欠かせない「松竹梅」と「鶴と亀」です。

「鶴と亀」では、亀のしっぽが赤く描かれていて、これは「亀は万年」といわれるように長生きをして苔がついている様子を描いたものです。

鶴は、上下逆さに描かれています。通常の向きで描いてしまうと、そのまま飛んで行ってしまいます。そこで、縁起の良い鶴がひっくり返って舞い降りている様子を描くため逆さに描かれています。このように曲物の絵には、子供を想う優しい心が込められています。

様々な用途に使われる博多曲物

伝統的な博多曲物ですが、モダンなデザインや用途の曲物、曲げわっぱも誕生しています。

曲物ピアスケース 小物入れ 博多曲物 玉樹

木の美しさが生かされた「ピアスケース」、「CDケース」やパーティーなどで目を引く「ワイン&シャンパンクーラー」です。

博多曲物 柴田玉樹 曲げわっぱ 曲物でできたワインクーラーです
曲物でできたワインクーラー

「ワイン&シャンパンクーラー」は結露もしにくく、パーティーでテーブルに置いてあると、主役になりそうな美しさです。

曲物の器でコーディネートされた空気清浄機も生まれました。和室など室内にマッチして、インテリアや間接照明としてもお使いいただけます。

協力:
柴田玉樹
参考文献:
手仕事の日本. 柳宗悦. 岩波書店, 1985
かたりべ文庫 16回 職人の手仕事 Vol.2 博多曲物. 株式会社ゼネラルアサヒ, 2009

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この記事を書いた人

博多伝統工芸品オンラインショップCrafts of Hakataの店長の田中真です。

田中 真
博多伝統工芸品オンラインショップ Crafts of Hakata の店長です。工房&工芸品ショップめぐり、旅行が大好きです。ユーラシア大陸横断、世界一周など訪れた国は50ヶ国以上。はかた伝統工芸館企画委員、はかた国際工芸協会事務局。代表をつとめる(株)トリップインサイトでは工房を訪れるツアーを企画催行しています。

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